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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)8670号 判決

原告

野坂哲男

被告

赤松功三

主文

一  被告は原告に対し、金二〇一五万七八五三円及びこれに対する昭和六三年一二月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、金四五七四万三一八五円及びこれに対する昭和六三年一二月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え

第二事案の概要

本件は、被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が交差点を右折しようとした際、対向直進してきた原告運転の自動二輪車(以下「原告車」という。)と衝突し、原告が負傷した事故について、原告が被告に対して、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求したものである。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

日時 昭和六三年一二月一三日午後八時四〇分ころ

場所 大阪府東大阪市中石切町五丁目七番五九号先交差点

態様 被告が被告車を運転して信号機の設置されている交差点を右折する際、対向直進してきた原告運転の原告車に被告車の前部を衝突させて、転倒させ、原告を負傷させた。

2  責任

被告は、本件交差点を右折する際、前方不注視、右折不適当、交差点内の直進優先無視等の過失により、対向直進してきた原告運転の原告車と衝突して本件事故を発生させたもので、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

3  損害

(一) 入院雑費 二八万八〇〇円

(二) 職業付添費(六八日分) 六八万二三三〇円

(三) 通院交通費 一万五四八〇円

(四) 装具代 一二万一四六円

(五) 物損(原告車) 二〇万円

4  損害の填補 合計九三四万五八三九円

(一) 自賠責保険金 二一七万円

(二) 休業損害仮払い 三二二万円八一七円

(三) 診療報酬 三一五万二五四六円

(四) 装具代 一二万一四六円

(五) 職業付添費 六八万二三三〇円

二  争点

1  損害額(治療費、家族付添費、休業損害、逸失利益、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、トイレ改修費、弁護士費用)

2  過失相殺(被告は、原告が本件交差点に差しかかつた際、右折車の動静に充分注意を払わず、漫然と時速五〇キロメートルの速度で進行した過失があるとし、三〇パーセントの過失相殺を主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一、二、八ないし一〇、一一の1、一一の2の1、検甲一ないし五、乙一、二の1ないし7、六の1、2、七の1ないし15、九の1、2、一〇の1、2、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故状況

本件事故現場は、南北に伸びる両側五車線の国道(以下「本件国道」という。)と、本件国道より幅員の狭い東西方向に伸びる道路(以下「東西道路」という。)が本件国道の西側部分とで交差する信号機のあるT字形交差点である。本件事故現場は、平坦なアスフアルト舗装で、本件事故当時、路面は乾燥していた。本件事故現場付近の本件国道の制限速度は、時速五〇キロメートルである。本件事故当時、原告は、原告車を運転し、本件国道の中央寄り車線を時速約五〇キロメートルの速度で北進し、本件交差点に差しかかつたが、対面信号が青色であつたので、そのまま同交差点を直進通過しようとした。また、本件事故当時、被告は、被告車を運転して本件国道の中央線寄りを時速約五五キロメートルの速度で南進し、本件交差点に差しかかつた。その際、被告は、同交差点の対面信号が青色であつたので、時速約二〇キロメートルに減速して、同交差点の北詰停止線付近から右折を開始し、同地点から約一二・四メートル進行した同交差点北詰の横断歩道上付近で、前記のとおり北進してきた原告車の前部に被告車の前部を衝突させた。

2  原告の受傷及び治療状況等

原告は、本件事故当日、石切生喜病院で治療を受けた。右初診時の医師の診断は、右膝関節脱臼、左第ⅢⅤ中足骨骨折、左拇指基節骨骨折、恥骨結合離開、尿路損傷、右脛骨上端外側剥離、右後十字靱帯断裂で、三か月間の入院加療を要するとのものであつた。原告は、本件事故日から平成元年七月一六日まで右病院に入院し、その間、右各骨折、離開部位の接合、整復術、右靱帯の再建術などの治療を受けた。右退院後、原告は、右病院に通院して、リハビリと薬物療法を中心にした治療を受けた。そして、平成元年一〇月二五日には、正座は困難であるが、あぐらをかくことができるようになつた。その後、右病院の医師は、原告の受傷について、同年一二月一六日に症状固定したとの診断をした(右症状固定日までの通院実日数四四日)。右症状固定日当時の傷病名は、右膝脱臼骨折(脛骨上端骨折、前後十字靱帯損傷、内側側副靱帯損傷)、恥骨結合離開、左拇指基節骨骨折、左第三、四、五中足骨骨折であり、右症状固定日当時、原告には、右膝関節の動揺と不安定感、正座ができない、階段の昇降が困難、右膝周囲の知覚に違和感あり、左足第三、五趾の変形疼痛、右肩挙上時に手に力が入らない、腹圧がかかると下腹部筋肉痛、仕事上、本来のしやがんだり立つたりができない、との自覚症状があつた。また、右医師は、原告の右膝には動揺が残り、常時、膝の固定具が必要であるとし、将来変形性関節症の発生する可能性が極めて高く、その場合には、人工関節置換術を要するとの見解を持つていた。原告は、歩行時、勤務時には右膝の固定具(平成元年一月一八日購入)を装着しており、右固定具のほかにも、支柱付きのサポーター(同年八月一八日購入)を持つているが、右サポーターは、安静時等に使用する簡便なものである。

二  損害

1  治療費 三一七万三五五六円(請求同額)

原告の本件事故による前記症状固定日までの治療費としては、保険会社から支払を受けた三一五万二五四六円(争いがない。)と、原告の自己負担分二万一〇一〇円(甲四ないし六、文書料を含む。)である。そうすると、治療費としては、合計三一七万三五五六円となる。

2  家族付添費 七万六五〇〇円(請求七三万八〇〇〇円)

前記病院の医師が原告の入院中に付添を要すると判断したのは、昭和六三年一二月一三日から平成元年二月二六日まで(七六日)と同年五月一二日から同月二〇日まで(九日)である(乙六の1、七の1)。そうすると、本件において、相当因果関係の認められる家族付添費は、右合計八五日から職業的付添日数六八日(争いがない。)を控除した一七日間について、合計七万六五〇〇円(一日当たり四五〇〇円)である。

3  休業損害 三一六万八〇四一円(請求三四八万三二一三円)

原告は、本件事故当時、タツタ電線株式会社(以下「タツタ電線」という。)に勤務し、昭和六三年九月から同年一一月までの三か月間に毎月平均二九万六七二六円(年間三五六万七一二円)の給与と毎年六月と一二月に賞与を得ていたが、本件事故で本件事故の翌日である昭和六三年一二月一四日から平成元年八月三一日まで(八・五八か月)欠勤し、その間、給与を支給されず、賞与は六二万二一三二円が減額された(乙三ないし五、弁論の全趣旨)。右事実に、前記一2(原告の受傷及び治療状況等)を併せ考慮すると、本件事故と相当因果関係のある休業損害としては、三一六万八〇四一円(右八・五八か月分の給与と賞与減額分の合計額、円未満切り捨て、以下同じ。)となる。

4  逸失利益 一九二四万七七六三円(請求三二八一万八四九九円)

原告は、昭和一三年六月二二日生まれで、昭和三四年から現在までタツタ電線に勤務している。本件事故当時、原告は、タツタ電線で品質保証部に所属し、検査業務に従事していた。原告は、本件事故後、平成元年九月一日から復職しており、復職後の仕事内容は本件事故前と同じであるが、重い物を運ぶ場合には、他の従業員に運搬してもらつている。原告は、右復職後、タツタ電線から給与の支給を受けているが、復職後の一年間は昇給がなく、二年目は同僚の七〇パーセント程度の昇給で、毎月の給与は、同職種、同年齢の同僚より二〇〇〇円位少ない。タツタ電線の定年は五五才で、定年後は、タツタ電線の嘱託、あるいは下請先への出向として五九才位まで働くことができるが、勤務内容は、従来と異なる可能性が強い(甲七の1、2、乙三ないし五、原告本人)。

ところで、労働能力喪失の程度は、後遺症の内容、程度のみならず、被害者の職業、仕事内容、転職の可能性等を総合考慮して決定すべきであるととろ、前記一2(原告の受傷及び治療状況等)で認定した原告の症状固定日当時の症状からすると、原告は、あぐらをかくことはできるものの、右膝には動揺があつて、常時、膝の固定具が必要であり、将来、変形性関節症の発生する可能性が極めて高く、そのような場合には人工関節置換術を要するものであり、また、右認定事実によれば、原告は、五五才まではタツタ電線で勤務を継続する可能性が高く、その間、原告自身の努力と同僚の助けを得ながら勤務を続け、同じ立場の健康な同僚より若干低額ではあるものの給与の支給を受けることができるのであり、定年後は、仮に出向しても従来と異なる勤務内容になる可能性が高いことから、出向先における継続的勤務の可能性は低いというべきであり、これらの事情を総合考慮すれば、原告は、症状固定日の五一才から定年までの五五才の四年間(新ホフマン係数三・五六四三)は、一〇パーセントの労働能力を喪失し、その後は就労可能年数六七才までの一二年間(一六年の新ホフマン係数一一・五三六三から四年の新ホフマン係数三・五六四三を控除した七・九七二)は、四五パーセントの労働能力を喪失したと解するのが相当である。そして、原告は、前記二3(休業損害)で認定したとおり、本件事故当時、年間三五六万七一二円の給与を得る高度の蓋然性があり、また、本件事故がなければ、平成元年六月と同年一二月に合計一三一万九七六三円の賞与を得ることができた(乙四、五)のであるから、原告の逸失利益は、症状固定日から五五才までの間については、一七三万九五四七円(右年間給与と賞与の合計額四八八万四七五円に三・五六四三と一〇パーセントを適用)であり、それ以後の五六才から六七才までの間については、一七五〇万八二一六円(四八八万四七五円に七・九七二と四五パーセントを適用)となる(以上合計一九二四万七七六三円)。

5  入通院慰謝料 一七〇万円(請求一七二万五〇〇〇円)

前記一2(原告の受傷及び治療状況等)で認定した原告の症状、治療経過、本件事故状況、その他一切の事情を考慮すれば、入通院慰謝料としては一七〇万円が相当である。

6  後遺障害慰謝料 六〇四万円(請求七五九万円)

前記一2(原告の受傷及び治療状況等)の認定事実及び前記二4(逸失利益)で判示したところによれば、後遺障害慰謝料としては、六〇四万円が相当である。

7  トイレ改修費(請求一一万二〇〇〇円)

原告主張のトイレ改修の具体的必要性及び改修費を認定するに足りる証拠がないから、原告の右請求は認められない。

8  弁護士費用 一七四万円(請求四一五万円)

原告の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては、一七四万円が相当である。

三  過失相殺

前記一1(本件事故態様)で認定したところによれば、被告は、夜間、本件交差点を右折するにあたり、対向直進してくる車両に充分注意して右折すべきであつたのに、これを怠つて本件事故を発生させた点でその過失は大きいが、他方、原告も、本件事故現場が交差点であり、自己の進路上に対向右折車が進出してくることを充分注意して運転すべきであつた点に過失があり、これらを総合すると、前記二1ないし6の各損害合計三三四〇万五八六〇円と前記第二の一3の争いのない損害額合計一二九万八七五六円(以上合計三四七〇万四六一六円)について、過失相殺として二割を減額する(二七七六万三六九二円)のが相当である。

四  以上によれば、原告の請求は、二〇一五万七八五三円(前記三の過失相殺後の金額二七七六万三六九二円に前記二8の弁護士費用一七四万円を加えた合計二九五〇万円三六九二円から前記争いのない損害の填補額九三四万五八三九円を控除したもの)とこれに対する本件交通事故発生の翌日である昭和六三年一二月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

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